
こんにちは、社労士の鈴木です。今日は、2025年12月1日から発効する「日・オーストリア社会保障協定」についてご紹介し、企業や駐在員・派遣社員の皆さまが知っておくべきポイントを解説します。
社会保障協定とは何か?
社会保障協定(Social Security Agreement)とは、異なる国の社会保障制度間で調整を行うための国際協定です。主な目的は、二重加入の回避・保険料負担の軽減・年金期間の通算などを通じて、国をまたぐ移動に関わる社会保障の不利益を減らすことにあります。
日本はこれまで多数の国と社会保障協定を結んでおり、今回オーストリアとの協定が新たに発効する(2025年12月1日)ことで、対象国が 24か国目となります。
発効の背景と主な内容
協定の署名自体は令和6年1月19日、正式な外交公文の交換により2025年12月1日から効力を持つことが決まりました。
この協定で特に注目すべき内容は以下のとおりです:
- 一時派遣・駐在者の保険料の二重払いの解消
日本とオーストリア間で相手国に駐在する被用者等(企業駐在員など)が、両国で社会保障制度(年金保険など)に加入しなければならないケースがありました。
今回の協定では、一定条件(派遣期間が見込みで5年以内など)を満たす場合、「派遣元国」の年金制度等への加入のみでよくなる原則が設けられます。
- 保険期間の通算
日本とオーストリアそれぞれの国での保険期間(年金加入期間など)を通算することにより、年金受給権をそれぞれの国で確立できるようになります。
例えば、ある期間をオーストリアで働き、日本で働いた期間がある人が、それぞれの国で一定期間の加入がなかったとしても、通算により受給条件を満たすことが可能になるケースがあります。
企業・駐在員にとってのメリット
この協定には、企業や駐在員・派遣社員にとって以下のようなメリットがあります。
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社会保険料の二重払い負担の軽減
これまでは、派遣・駐在期間によっては日本とオーストリア双方で保険料を払う必要がありましたが、この協定により条件を満たせばこれを避けられます。 -
移動が容易に・コストが見通しやすくなる
社会保障の取り扱いが明確になることで、駐在契約などを結ぶ際に、コストシミュレーションや福利厚生設計をしやすくなります。 -
年金受給権の確立がしやすくなる
通算規定により、期間が足りずに年金の受給が難しかった人にも、受給資格が認められる可能性が高くなる。これは長期的なキャリア設計において大きな安心材料です。
注意すべき事項・条件
ただし、協定が適用されるためにはいくつかの条件・注意点があります。以下、押さえておきたいポイントです。
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派遣期間の見込みが“5年以内”であること
派遣元国の年金制度へのみ加入できるという規定は、「派遣期間が5年以内の見込み」という条件があります。見込みの判断や、実際の期間が変わる場合の扱いを事前に確認する必要があります。 -
対象となる被用者等であるかどうか
一般社員・駐在員・派遣社員など、所属先・雇用形態によって協定の適用が異なることがあります。どのような立場の方が“被用者等”に当たるか、派遣元・派遣先のどちらの制度に入ることになるか等、契約内容をよく確認することが大切です。 -
通算される保険期間の種類
年金のみでなく、他の社会保障制度(健康保険・介護保険など)が含まれるか、またどのように通算されるかが協定条項で定められています。協定全文・厚生労働省の説明資料を確認して、自身が該当する制度を把握することが必要です。 -
手続きの準備
協定発効以降、通算の申請や派遣元国制度のみの加入手続きを行う際に、必要な書類や証明(勤務期間証明書、派遣契約書など)が要求されることが予想されます。早めの準備が望ましいです。
まとめ
この協定の発効により、日・オーストリア間で働く人たちの年金・社会保障制度上の負担が減り、国際的な人的交流・経済交流の促進が期待されます。駐在・派遣契約をこれから結ぶ企業や個人は、この制度を上手く活用できるよう、契約内容・制度内容をしっかり確認しておきましょう。
制度は制度だけで終わりではなく、「どう実務に落とし込むか」が鍵です。個別のケースで判断が分かれることも多いため、お困りの際は専門家(社労士や年金相談窓口など)への相談をお勧めします。