心疾患の障害認定基準について

障害の区分は7つ

心疾患とは、心臓だけではなく、血管を含む循環器疾患を指すものです。(ただし、血圧については、「高血圧症による障害」にあたりますので、ここでは除かれます。)

心疾患による障害は、7つの区分に分かれていて、それぞれ認定基準などが決まっています。

  • 弁疾患
  • 心筋疾患
  • 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
  • 難治性不整脈
  • 大動脈疾患
  • 先天性心疾患
  • 重症心不全

認定基準 ~ 障害の等級とそのめやす ~

障害の程度

障害の状態
1級
  • 長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
2級
  • 日常生活が著しい制限を受けるか、または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
3級
  • 労働が制限を受けるか、または労働に制限を加えることを必要とする程度のもの

障害の程度は、呼吸困難、心悸亢進、尿量減少、夜間多尿、チアノーゼ、 浮腫等の臨床症状、X線、心電図等の検査成績、一般状態、治療及び病状の経過などにより、総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも 1 年以上の療養を必要とするものとされています。

障害等級の例

疾患別に障害各等級に相当すると認められるものを一部例示すると、次のとおりです。

弁膜症

障害の程度 障害の状態
1級
  • 病状(障害)が重篤で、安静時においても心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有する。
  • 一般状態区分表のオに該当する。
2級
  • 人工弁を装着術後6 ヶ月以上経過しているが、なお病状をあらわす臨床所見が 5 つ以上ある。
  • 異常検査所見が 1 つ以上ある。
  • 一般状態区分 表のウ、またはエに該当する 。
  • 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち 2 つ以上の所見がある。
  • 病状をあらわす臨床所見が 5 つ以上ある。
  • 一般状態区分表のウ、またはエに該当する。
3級
  •  人工弁を装着したもの
  • 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち 1 つ以上の所見がある。
  • 病状をあらわす臨床所見が 2 つ以上ある。
  • 一般状態区分表のイ、またはウに該当する。

(注 1) 複数の人工弁置換術を受けている者にあっても、原則 3 級相当とされています。

(注 2) 抗凝固薬使用による出血傾向については、重度のものを除き認定の対象とはされません

心筋疾患

障害の程度 障害の状態
1級
  • 病状(障害)が重篤で、安静時においても心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有する。
  • 一般状態区分表のオに該当する。
2級
  • 異常検査所見のFがある。
  • 病状をあらわす臨床所見が 5 つ以上ある。
  • 一般状態区分表のウ、またはエに該当する 。
  • 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち 2 つ以上の所見がある。
  • 心不全の病状をあらわす臨床所見が 5 つ以上ある。
  • 一般状態区分表のウ、またはエに該当する。
3級
  • EF値が 50%以下を示す。
  • 病状をあらわす臨床所見が 2 つ以上ある。
  • 一般状態区分表のイ、またはウに該当する。
  •  異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち 1 つ以上の所見がある。
  • 心不全の病状をあらわす臨床所見が1つ以上ある。
  • 一般状態区分表のイ、またはウに該当する。

(注 1)肥大型心筋症は、心室の収縮は良好に保たれるが、心筋肥大による心室拡張機能障害や左 室流出路狭窄に伴う左室流出路圧較差などが病態の基本となっています。したがってEF値が障害認定にあたり、参考とならないことが多く、臨床所見や心電図所見、胸部X線検査、心 臓エコー検査所見なども参考として総合的に障害等級を判断することとされています。

虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)

障害の程度 障害の状態
1級
  • 病状(障害)が重篤で、安静時においても常時心不全あるいは狭心症状を有する。
  • 一般状態区分表のオに該当する。
2級
  • 異常検査所見が 2 つ以上ある。
  • 軽労作で心不全あるいは狭心症などの症状 をあらわす
  • 一般状態区分表のウ、またはエに該当する 。
3級
  • 異常検査所見が 1 つ以上ある。
  • 心不全あるいは狭心症などの症状が 1 つ以上ある
  • 一般状態区分表のイ、またはウに該当する。

(注 1)冠動脈疾患とは、主要冠動脈に少なくとも1ヶ所の有意狭窄をもつ、あるいは、冠攣縮が 証明されたものを言い、冠動脈造影が施行されていなくとも心電図、心エコー図、核医学検 査などで明らかに冠動脈疾患と考えられるものも含まれます。

難治性不整脈

障害の程度 障害の状態
1級
  •  病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA 心機能 分類クラスⅣ)を有する。 
  • 一般状態区分表のオに該当する。
2級
  • 異常検査所見のEがある。
  • 一般状態区分表のウ、またはエに該当する 。
  • 異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち、2つ以上の所見がある。
  • 病状をあらわす臨床所見が 5 つ以上ある。
  • 一般状態区分表のウ、またはエに該当する。
3級
  • ペースメーカー、ICDを装着した。 
  • 異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち 1 つ以上の所見がある。
  • 病状をあらわす臨床所見が 1 つ以上ある。
  • 一般状態区分表のイ、またはウに該当する。

(注 1) 難治性不整脈とは、放置すると心不全や突然死を引き起こす危険性の高い不整脈で、 適切な治療を受けているにも拘わらず、それが改善しないものを言います。
(注 2) 心房細動は、一般に加齢とともに漸増する不整脈であり、それのみでは認定の対象と はなりませんが、心不全を合併したり、ペースメーカーの装着を要する場合には認定の対象となります。 

大動脈疾患

障害の程度 障害の状態
3級
  • 胸部大動脈解離(Stanford 分類A型・B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管を挿入した。
  • 一般状態区分表のイ、またはウに該当する。
  • 胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤に、難治性の高血圧を合併した。

(注 1) Stanford 分類A型: 上行大動脈に解離がある。
              Stanford 分類B型: 上行大動脈まで解離が及んでいないもの。

(注 2) 大動脈瘤とは、大動脈の一部がのう状又は紡錘状に拡張した状態で、先天性大動脈疾 患や動脈硬化(アテローム硬化)、膠原病などが原因となります。これのみでは認定の対象とはなりませんが、原疾患の活動性や手術による合併症が見られる場合には、総合的に判断されます。

(注 3) 胸部大動脈瘤には、胸腹部大動脈瘤も含まれます

(注 4) 難治性高血圧とは、塩分制限などの生活習慣の修正を行った上で、適切な薬剤3薬以 上の降圧薬を適切な用量で継続投与しても、なお、収縮期血圧が 140 mmHg 以上、または拡張期血圧が 90mmHg 以上のものをいいます。

(注 5) 大動脈疾患では、特殊な例を除いて心不全を呈することはなく、また最近の医学の進歩はあるが、完全治癒を望める疾患ではありません。従って、一般的には 1・2 級には該当ませんが、本傷病に関連した合併症(周辺臓器への圧迫症状など)の程度や手術の後遺症 によっては、さらに上位等級に認定することとされています。

          ・ 大動脈瘤の定義:嚢状のものは大きさを問わず、紡錘状のものは、正常時(2.5~ 3cm) の 1.5 倍以上のものをいいます。(2 倍以上は手術が必要。)

          ・ 人工血管にはステントグラフトも含まれます。 

先天性心疾患

障害の程度 障害の状態
1級
  •  病状(障害)が重篤で、安静時においても常時心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有する。
  • 一般状態区分表のオに該当する。
2級
  • 異常検査所見が 2 つ以上ある。
  • 病状をあらわす臨床所見が 5 つ以上ある。
  • 一般状態区分表のウ、またはエに該当する 。
  • Eisenmenger 化(手術不可能な逆流状況が発生)を起こしているもの。
  • 一般状態区分表のウ、またはエに該当する。
3級
  • 異常検査所見のC、D、Eのうち 1 つ以上の所見がある。
  • 病状をあらわす臨床所見が 1 つ以上ある。
  • 一般状態区分表のイ、またははウに該当するもの 
  • 肺体血流比 1.5 以上の左右短絡である。
  • 平均肺動脈収縮期圧 50mmHg 以上である。
  • 一般状態区分表のイ、またはウに該当する。

重症心不全

心臓移植や人工心臓等を装着した場合の障害等級は、次のとおりとされています。
ただし、術後は次の障害等級に認定されますが、1~2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、 臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を再認定することとされています。

障害の程度 障害の状態
1級
  •  心臓移植
  •  人工心臓
2級
  • CRT(心臓再同期医療機器)
  • CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器) 

障害の状態の判断基準

異常検査所見

区分  異常検査所見 
A

安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下、もしくは 0.5mV以上の 深い陰性T波(aVR誘導を除く。)の所見のあるもの 

B 負荷心電図(6Mets 未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの
C 胸部X線上で心胸郭係数 60%以上、または明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性 肺水腫のあるもの 
D 心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能 の制限、先天性異常のあるもの 
E 心電図で、重症な頻脈性、または徐脈性不整脈所見のあるもの 
F 左室駆出率(EF)40%以下のもの 
G BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が 200pg/ml 相当を超えるもの 
H 重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に 50%以上の狭窄、あるいは、3 本の主要冠動脈に 75%以上の狭窄を認めるもの 
I 心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの

(注 1) 原則として、異常検査所見があるもの全てについて、それに該当する心電図等を提出 します。

(注 2) 「F」についての補足・・・心不全の原因には、収縮機能不全と拡張機能不全とがある。 近年、心不全症例の約 40%はEF値が保持されており、このような例での心不全は左室拡張不全機能障害によるものとされています。しかしながら、現時点において拡張機能不全を簡便に判断する検査法は確立されていません。左室拡張末期圧基準値(5-12mmHg)をかなり超える場合、パルスドプラ法による左室流入血流速度波形を用いる方法が一般的とされています。この血流速度波形は急速流入期血流速度波形(E波)と心房収縮期血流速度波形 (A波)からなり、E/A比が 1.5 以上の場合は、重度の拡張機能障害といえるとされています。

(注 3) 「G」についての補足・・・ 心不全の進行に伴い、神経体液性因子が血液中に増加することが確認され、心不全の程度を評価する上で有用であることが知られています。中でも、BNP値(心室で生合成され、 心不全により分泌が亢進)は、心不全の重症度を評価する上でよく使用されるNYHA分類の重症度と良好な相関性を持つことが知られていおり、この値が常に 100 pg/ml 以上の場合は、NYHA心機能分類でⅡ度以上と考えられ、200 pg/ml 以上では心不全状態が進行していると判断されます。

(注 4) 「H」についての補足・・・すでに冠動脈血行再建が完了している場合を除きます。

一般状態区分

区分 一般状態
  • 無症状で社会活動ができる。
  • 制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえる。
  • 身体活動能力6Mets 以上。
  • 軽度の症状がある。
  • 歩行、軽労働や座業はできる(例えば、軽い家事、事務など )
  • 肉体労働は制限を受ける。
  • 身体活動能力4Mets 以上6Mets 未満。
  • 歩行や身のまわりのことはできる。
  • 時に少し介助が必要なことがある。
  • 日中の 50%以上は起居している。
  • 軽労働はできない。
  • 身体活動能力3Mets 以上4Mets 未満。
  • 身のまわりのある程度のことはできる。
  • しばしば介助が必要である。
  • 日中の50%以上は就床している。
  • 自力では屋外への外出などがほぼ不可能である。
  • 身体活動能力2Mets 以上3Mets 未満。
  • 身のまわりのことができない。
  • 常に介助を必要としている。
  • 終日就床を強いられる。
  • 活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られる。
  • 身体活動能力2Mets 未満。

(注) Mets とは、代謝当量をいい、安静時の酸素摂取量(3.5ml/kg 体重/分)を1Mets として活動時の酸素摂取量が安静時の何倍かを示すものです。

NYHA心機能分類

NYHA心機能分類では、心不全の重症度を以下のように分類しています。

Ⅰ度
  • 心疾患はあるが身体活動に制限はない。
  • 日常的な身体活動では著しい疲労,動悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じない。
Ⅱ度
  • 軽度ないし中等度の身体活動の制限がある。
  • 安静時には無症状。
  • 日常的な身体活動で疲労,動悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じる。
Ⅲ度
  • 高度な身体活動の制限がある。
  • 安静時には無症状。
  • 日常的な身体活動以下の労作で疲労,動悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じる。
Ⅳ度
  • 心疾患のためいかなる身体活動も制限される。
  • 心不全症状や狭心痛が安静時にも存在する。
  • わずかな労作でこれらの症状は増悪する。

日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』より抜粋

臨床所見

心疾患の主要症状は、次の自覚症状と他覚所見があります。

  • 自覚症状・・・胸痛、動悸、呼吸困難、失神など
  • 他覚所見・・・浮腫、チアノーゼなど

他覚所見は医師の診察により得られた客観的症状なので、常に自覚症状と連動しているか否かに留意する必要があるとされています。

検査成績

  • 検査成績としては、血液検査(BNP値)、心電図、心エコー図、胸部X線、X線CT、MRI等、核医学検査、循環動態検査、心カテーテル検査(心カテーテル法、心血管造影法、冠動脈造影法など)などがあります。
  • 各疾患によって、用いられる検査が異なっており、また、特殊検査も多いため、診断書上に適切に症状をあらわしていると思われる検査成績が記載されているときは、その検査成績も参考とし、認定時の具体的な日常生活状況などを把握して、総合的に認定することとされています。

認定における留意点

  • 肺血栓塞栓症肺動脈性肺高血圧症は、心疾患による障害として認定されます。
  • 心血管疾患が重複している場合には、客観的所見に基づいた日常生活能力等の程度 を十分考慮して総合的に認定することとされています。
  • 心臓ペースメーカー、またはICD(植込み型除細動器)、または人工弁を装着した場合の障害の程度を認定すべき日は、それらを装着した日(初診日から起算して 1 年 6 月を超える場合を除く。)とされています。 

対象となる傷病例

心不全、ペースメーカー植え込み、人工弁装着、拡張型心筋症、心臓弁膜症、大動脈弁狭窄症、狭心症、心筋梗塞、心房細動、心室細動、心室頻拍症、高度房室ブロック、完全房室ブロック、解離性大動脈瘤など

障害認定基準

日本年金機構が発出している心疾患の障害認定基準(原文)は下のリンクからも見ることができます。

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